特集1

2024.08

体験の語りと、それを受けとめること

はじめに

 

わたしは、病める人や、悩みや苦しみを一人で抱え込んでいる人の話を聴く専門家です。一般的にはカウンセラーと呼ばれているこの生業(なりわい)に40年以上の年月を重ねてきました。ここでは、そうした経験を踏まえて、医療従事者と患者さんとの関係について考えていきたいと思います。

 

「糖尿病患者」という呼称

 

糖尿病診療に関わり始めた当初からわたしは、「糖尿病患者」という呼び方に抵抗感を抱いてきました。糖尿病を抱えて生きる人たちの話に耳を傾けていると、そこには糖尿病という病気についての話以上に、その病気にまつわる生活や人間関係、ひいては人生の悩みやつらさの語りがあったからです。医療従事者に治してもらおうとするのではなく、糖尿病と共に生きていこうとする姿をそこに見ることしきりでした。そのため、わたしは折に触れて、「糖尿病者」という表現の方がより適切であると言葉にしてきました。

 

このことにはまた、次のような思いもありました。確かに、糖尿病者は糖尿病を患っていて医療機関を受診しているわけですから、「患者」に違いはありません。

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