特別企画2

2025.08

食欲のしくみ

はじめに

 

わたしたち人間は、生きていくために欠かせないエネルギーを、すべて食事から得ています。つまり、「食べること」は、まさに生命活動そのものであります。食事は空腹を満たし、不足したエネルギーを補うだけではなく、おいしいものを食べることでこころまで満たされ、気分が明るくなるようなはたらきもあります。こうした体験は、多くの人が日常的に感じているのではないでしょうか。例えば、食後におなかがいっぱいでも、思わずデザートに手が伸びてしまうことがありますよね。これは、体がエネルギーを欲しているというよりも、「こころ」がおいしさや楽しさを求めているからだと考えられます。

 

このように、わたしたちの「食べる」という行動は、単に生きるためだけではなく、「食の喜び」や「満足感」を得るための行動でもあるのです。ところが、こうした食行動がどのように生まれるのか、そのしくみが科学的に研究され始めたのは意外と最近のことで、まだ100年ほどの歴史しかありません。かつては、「おなかが空いた」「おなかがいっぱい」といった表現が示すように、食欲の中心は「胃」にあると考えられていました。しかし、その後の脳科学の進歩によって、実際には「脳」が食欲

関連記事